読書覚え書き その１
～2011年末頃から2012年まで～
こうして振り返ってみると、年間読書量は２０冊程度なのだなあ。もう少し読みたい気もするが、家の中の本が増え続けるのも困りものである。
25 大山礼子『日本の国会 －審議する立法府へ』（岩波新書）
24 太田猛彦『森林飽和 国土の変貌を考える』（NHKブックス）
23 ポール・セルー著 阿川弘之訳『鉄道大バザール 上・下』（講談社文芸文庫）
22 久米邦武『現代語訳 特命全権大使 米欧回覧実記 普及版 第４巻 ヨーロッパ大陸編・中』（慶応義塾大学出版会）
21 内田百閒『私の「漱石」と「龍之介」』（ちくま文庫）
20 久米邦武『現代語訳 特命全権大使 米欧回覧実記 普及版 第３巻 ヨーロッパ大陸編・上』（慶応義塾大学出版会）
19 石川真澄『人物戦後政治－私の出会った政治家たち』（岩波現代文庫）
石川真澄『小選挙区制と政治改革－問題点は何か－』（岩波ブックレット）
18 ジェイン・ジェイコブズ著 山形浩生訳『〔新版〕アメリカ大都市の死と生』（鹿島出版会）
17 D.O.ウッドペリー著 関正雄・湯澤博・成相恭二訳『パロマーの巨人望遠鏡（上・下）』（岩波文庫）
16 北杜夫『どくとるマンボウ青春記』（新潮文庫）
15 ポール・ド・クライフ著 秋元寿恵夫訳『微生物の狩人（下）』（岩波文庫）
14 『山下清の放浪地図 昭和の日本をぶらりぶらり』（平凡社）
13 秋山岳志『機関車トーマスと英国鉄道遺産』（集英社新書）
12 太田啓之『いま、知らないと絶対損する 年金50問50答』（文春新書）
11 ポール・ド・クライフ著 秋元寿恵夫訳『微生物の狩人（上）』（岩波文庫）
10 土屋賢二『教授の異常な弁解』（文春文庫）
09 石橋知也『最新 生命保険の基本と仕組みがよ～く分かる本 [第２版]』（秀和システム）
08 久米邦武『現代語訳 特命全権大使 米欧回覧実記 普及版 第２巻 イギリス編』（慶応義塾大学出版会）
07 藤岡換太郎『山はどうしてできるのか』（講談社ブルーバックス）
06 大学のゼミの先生からのいただきもの
05 河島基弘『神聖なる海獣―なぜ鯨が西洋で特別扱いされるのか』（ナカニシヤ出版）
04 カフカ 池内紀 訳『カフカ短篇集』（岩波文庫）
03 野口雅弘『官僚制批判の論理と心理』（中公新書）
02 カズオ・イシグロ 入江真佐子 訳『わたしたちが孤児だったころ』（ハヤカワepi文庫）
01 久米邦武『現代語訳 特命全権大使 米欧回覧実記 普及版 第１巻 アメリカ編』（慶応義塾大学出版会）
大山礼子『日本の国会 －審議する立法府へ』（岩波新書）
１２月２６日に読了。日本の国会がなぜ実質的な審議の行われる場とならないかについて、戦後初期からの変遷をたどりつつ、議会制度の国際比較の観点に立って分析したもの。特に、ヨーロッパ大陸諸国の議会との比較から、イギリスの議会制度がむしろ議院内閣制下の議会のあり方としては特殊であると論じ、イギリス議会を範とするいわゆるウェストミンスターモデルに基づく日本のこれまでの政治改革の議論の方向性にいささか無理があったのではないかと論じる。
国会とはいささか縁の深い仕事をしている自分でも初めて知ることが多く大変勉強になった。それにしても、議院内閣制下の内閣と議会の関係というのは、どこの国でもなかなか複雑なものであるなあと感じた。
(2013.1.5)
太田猛彦『森林飽和 国土の変貌を考える』（NHKブックス）
１２月７日に読了。木を伐るのはそれだけで悪いことだと、何となく現代日本の都市住民は思っている。そういう通念に冷水を浴びせるような、なかなかに刺激的なタイトルだ。（日本の）森林は飽和状態である、というのである。
本書の白眉は、日本の森林が江戸時代から戦後すぐの時期くらいまで、はげ山だらけのひどい状態だったことを示す前半部の記述である。近代に入ってからの写真だけでなく、江戸時代の浮世絵でもそれがよく表れているという。広重の東海道五十三次では、山には松か何かがちょろちょろと生えているばかりなのだ。
安定した社会の中で人口が増大した江戸時代は、実は自然収奪型の社会だったのである。江戸はエコだというような主張をよく見かけるが、これを読めばとうていそんなことは言われないだろう。
また、「里山」を賞賛する声もよく聞かれるが、「里山は一種の荒地生態系」だと著者は言う。
戦後のたゆまない努力により、日本の森林は劇的な回復を見た。しかし、例えば、それが土砂流出を減少させたことで、海岸において、かつては砂丘の発達による飛砂が問題であったところ、今では砂浜の浸食が深刻なものとなってしまっている。
本書後半部の提言部分では、正直なところ、前半部ほどの面白さは感じられなくなる。実験室での再現が困難であるような、こうした自然に関わる問題は複雑であり、そうそうクリアカットな議論ができるというわけではないのだろう。
しかし、現代日本はつい数十年前と違って劇的に森林が回復している状況にあり、国土環境のフェーズがまるで変わってしまっているということを認識すべきであるとする著者の基本的主張は大変に説得的なものである。
なお、贅沢を言えば、専門用語もかなり多いので索引が欲しかったと思う。
(2012.12.14)
ポール・セルー著 阿川弘之訳『鉄道大バザール 上・下』（講談社文芸文庫）
上巻１１月１６日、下巻２７日に読了。1970年代前半、ロンドンを発って、オリエント急行を皮切りに、中東、インド、東南アジアを経て日本に至り、シベリア鉄道で帰るという数か月に及ぶアメリカ人作家による鉄道大旅行記。昔から存在は知っていて読みたいと思っていた本であるが、邦訳は長らく絶版になっており私にとっては「幻の書」であった。ロンドンにいるときに、Penguin Bookの‘The Great Railway Bazaar’を買ってみたが、私の語学力ではとうてい読み通すことができそうもなく断念。
ところが、それがこのたび講談社文芸文庫から復刊された。しかし、高い（まあ、講談社文芸文庫なので…）。１巻1600円（税別）の２巻もの。文庫本の価格とも思えないが、買うしかない。
感想であるが、西洋人のオリエンタリズムが鼻につくというところがあるのは否定できないが、インドをはじめ摩訶不思議な汽車の旅で大変面白かった。70年代と今とでは世界がずいぶん変わったのだなあとの感も深い。筆者をして「これ以上もうカブールにいたくない」と言わしめたアフガニスタンの状況とかベトナム戦争下の南ベトナムとか色々と考えさせられるところもある。日本の話がやたらセックスに偏っているのがなぜなのかさっぱり謎なのではあるが。
別に原文と照らし合わしたわけではないが、阿川弘之による訳文が軽妙で秀逸。また、鉄道好きの阿川氏らしい日本の鉄道に関する記述の細かい訳注が笑える。
停車時間がひどく短いから、予告が必要なのだ。南浦和で十五秒（「はつかり」は南浦和に停車せず。信号待ちの臨時停車か？）…（下巻p.182）
なんてあたりはまあ分かるが、さらに、こんなことまで。
娘がマンガ本を席に置いて立ち上がり、客車の端の便所へ行く。「使用中」の緑のランプ（実際は橙色）…（下巻p.185）
鉄道のこととなれば、たとえ便所のランプの色でもゆるがせにできない阿川氏なのである。
(2012.12.4)
久米邦武 編著 水澤周 訳注 米欧亜回覧の会 企画
『現代語訳 特命全権大使 米欧回覧実記 普及版 第４巻 ヨーロッパ大陸編・中』
（慶応義塾大学出版会）
１１月１日に読了。使節団の旅も終わりが近づいてきた。この巻では、ロシア、ドイツ諸邦、北欧諸国、イタリア、オーストリアを巡る。ナポリの美しくもダメダメな感じとかは、今と少しも変わらない気がする。個人的には、使節団がセメリンク鉄道に乗っているのが印象的（第80章のところ）。いや、単に新婚旅行でウィーンからグラーツに行った際に乗ったというだけのことではあるが、明治の使節団も乗ったのかと思うと感慨もひとしおである。
(2012.11.13)
内田百閒『私の「漱石」と「龍之介」』（ちくま文庫）
１０月２４日に読了。内田百閒の沢山の随筆の中から、百閒が師と仰いだ夏目漱石と友であり百閒の文才を認めてくれた芥川龍之介について触れたものを編纂したもの。
そういうものであるので、ここに収録されているものは他のものにも載っていたりするため、実際私にとっては初見のものはあまりなかったように思う。が、百閒の随筆は何度読み返しても面白い。今回読んで、ちょっとおかしかったのは、百閒が漱石の思い出を講演した以下のくだり（「漱石雑話」）。
この本（『吾輩ハ猫デアル』のこと…引用者注）の出来る前に漱石の名は既に有名でありました。当時の人気は今日の若い人達の想像も及ばないほどであります。「猫」がユーモアの作品であるからその作者の漱石といふのはどんなおやぢかと漱石をつけまはして尾行する人も出て来たやうです。当時先生は本郷千駄木町に住んでゐられたのですが、その先生を尾行して、漱石が何をするかを調べて文章の雑誌などに投書する。かういふ事がはやりました。先生が風呂に行かれると一緒に風呂屋へ這入つて行つて風呂につかる。先生が湯槽から上がつてお尻を三べん叩いた。カンカンに乗って目方を計つた。帰り途に近所の文房具屋で一帖だつたか百枚だつたかが六銭の紙を買つたといふような事まで報告する。世間から人気があつたといふだけでなく、何だか気にかかる作者であつて、尊敬もせられ又好奇の目で以て見られてゐたやうであります。(p.104)
インターネットやテレビがある前から、覗き見趣味というのはあるのだなあと…。
なお、上記引用からわかるとおり、この本は旧仮名遣いである。同じちくま文庫でも、内田百閒集成のほうは新仮名なのだが、やはり百閒の文章は旧かなのほうがしっくり来るように思う。
(2012.10.28)
久米邦武 編著 水澤周 訳注 米欧亜回覧の会 企画
『現代語訳 特命全権大使 米欧回覧実記 普及版 第３巻 ヨーロッパ大陸編・上』
（慶応義塾大学出版会）
９月２７日に読了。使節団はいよいよヨーロッパ大陸中枢部に至る。この巻における訪問国は、フランス、ベルギー、オランダ、プロイセンである。
フランスは、やはり華の「おフランス」。アメリカやイギリスに対するのとはまた別の憧れを感じているのが伺える。
ベルギー、オランダについては小国ながら立派な国であることに関心を示している。
プロイセンは、使節団を最も厚く遇した国らしい。宰相ビスマルク自ら、こんなことを語りかけるのである。
—（前略）
聞くところによると英仏両国は海外植民地を搾取し、その物産を利用して国力をほしいままに強め、他の諸国はみな両国の行動に迷惑を感じているという。ヨーロッパの平和外交などはまだ信用するわけには行かない。みなさんもきっと顧みてひそかな危惧を捨て去ることができないのではないか。そのお気持ちは私自身小国に生まれ、その実態をよくよく知っているので、実によく理解できるところである。私が世界の批判などを顧みることなく、国権をまっとうしたその本心も、またそのところにある。したがって、現在日本が親しく交際している国も多いだろうけれども、国権と自主を重んずるわがドイツこそは、日本にとって、親しい中でも最も親しむべき国なのではないか—(p.370)
明治の国家指導者たちがプロイセン・ドイツびいきになるのもむべなるかな。ビスマルクはやはりすごい政治家である。
(2012.9.29)
石川真澄『人物戦後政治－私の出会った政治家たち』（岩波現代文庫）
石川真澄『小選挙区制と政治改革－問題点は何か－』（岩波ブックレット）
それぞれ９月１０日、１２日に読了。政治のあまりのグダグダぶりに、ふと、いわゆる「政治改革」の嵐が吹き荒れていたときに、小選挙区制反対の孤高の論陣を張っていた朝日新聞の政治記者石川真澄（1933-2004）が当時どんなことを言っていたのか確認してみたくなって、岩波ブックレットのほうを購入。ついでに、面白そうなので、岩波現代文庫のほうの本も購入。いずれもamazonを通じて古本で安く買えたためでもあるが。長くなりそうなので別稿を立てたい。
(2012.9.29)
やっと別稿が完成。
(2012.10.19)
ジェイン・ジェイコブズ著 山形浩生訳『〔新版〕アメリカ大都市の死と生』（鹿島出版会）
９月３日に読了。都市計画の分野における、あまりにも有名な「衝撃の書」。しかし、これまで全訳がなかった。また、ペンギン・ブックの原書は持っていたのだが、私の英語力ではどうも読み進んでいく気になれず。
いろいろと論じてみたいところであるが、今なお刺激的で面白い本であったとだけ、とりあえず書いておく。ただし、やはり1961年にアメリカで書かれた本であるので、ここで書かれていることを日本に直ちに当てはめるわけにはいかない（区画整理や再開発の反対派はジェイコブズにすぐ言及したがるが、その割にはちゃんと読んでないように思われる。）。
訳者の山形浩生氏による巻末解説は、本書の意義と限界を的確に論じており、大変有益である。
(2012.9.29)
D.O.ウッドペリー著 関正雄・湯澤博・成相恭二訳『パロマーの巨人望遠鏡（上・下）』（岩波文庫）
８月７日に読了。科学読み物というのは、読んでいて気持ちの良いものである。この本は、カリフォルニア州のパロマー山頂に直径200インチ (約5m)の反射鏡を有する巨大反射望遠鏡をつくりあげるまでのお話。科学者の執念もすごいが、それに応える技術者・職人たちの粘り強さはおそろしいほどである。光学的精度が必要となる直径5mの鏡を作成し、運搬・設置するというのがどれほど困難な仕事であることか。第二次世界大戦前のアメリカが偉大な「ものづくり」の国だったことが実感できる。
この反射鏡の運搬に関し、鉄道好きの私にとって面白かったのが、（いささか本筋を外れるが）以下の話。長くなるが引用する。
特別な大きい荷物を運送する場合には、鉄道会社は専門の「クリアランス・エンジニア」にその問題を取り扱わせる。クリアランス・エンジニアはアメリカ、カナダ、メキシコにおける鉄橋、トンネル、岩石開鑿地点、その他いわゆる「狭隘通路」百万箇所以上を記載したクリアランス・ブックを持っている。彼の任務は、依頼された貨物をなんの障害もなく、また正規の交通を不当に妨害することなく、できるかぎり速やかにその目的地に運送することである。彼はクリアランス・ブックにあるデータに多くのチャート、地図、表、所属する会社の線路に適用される公式を補足し、経験により、またときには手品師の技術で、困難な場所を切り抜けてその貨物を輸送するのである。しかし重い機械、水槽、大梁、ヨットなどの輸送を依頼する中には、不可能なことを期待するものがあるので、問題は非常に複雑になることもある。クリアランス・エンジニアは、何とかして依頼主の希望を満たす方法を考えなければその仕事はつとまらない。ときには線路付近の障害物を除いたり、線路自体を動かすような念入りな準備までも必要になってくる。（下巻p.72-73）
こんな仕事があったとは。当時はアメリカでも、道路でなく鉄道が頼りだったというのがよく分かるエピソードである。
(2012.8.15)
北杜夫『どくとるマンボウ青春記』（新潮文庫）
７月３日に読了。すごく昔に読んだはずなのだが、北杜夫の訃報を受けて改めて買ったものを読んだ。著者本来の根の真面目さと、それに相反するような表面的な馬鹿騒ぎやぐうたらぶりというのが面白いような痛ましいような、なんとも不思議な味わいの青春記である。しかし、正直なところ、旧制高校の「蛮カラ」というのは訳が分からない。あと、著者が東北大学医学部にいた頃が、ちょうど井上ひさし『青葉繁れる』と時期が重なるというのがちょっと面白い気がした。戦後の焼け野原の残る荒涼たる仙台の町で、医学生の北杜夫と仙台一高生の井上ひさしがすれ違ったりしたこともあるのだろうか。
(2012.7.8)
ポール・ド・クライフ著 秋元寿恵夫訳『微生物の狩人（下）』（岩波文庫）
なぜか詰め将棋にはまって（といっても簡単なやつ）、帰りの車内で読書をせずにそればかりしていたので、前の本からだいぶ空いて６月１９日に読了。微生物学者というのが、草創期においていかに冒険家的だったかというのがよく分かって（はっきり言って、無茶苦茶なことをしている）、大変面白かった。日本人としては、北里（柴三郎）、志賀（潔）、秦（佐八郎）といった名前がちらちら出てくるのがうれしいけれど、脇役でしかないのが残念でもある。誰かについて１章割いてほしかった。ちなみに、こんな一文がある。
彼は、非常に熱心なそして勤勉な日本人の医師志賀をえて、ハツカネズミの観察とか、血液を一滴とってトリパノゾーマを捜すためにハツカネズミのしっぽをほんのちょっぴり切ることだとか、あるいはまた、次のハツカネズミに注射する血液を一滴取るためにその同じしっぽの端をいま一度、ほんのちょっぴり切るとかいう―つまり、日本人の勤勉さとしんぼう強さをもってはじめてなしうるような忍耐を要する仕事を手伝わせた。（p.257）
著者がこのような文を書いたということは、そういう「勤勉な日本人」というイメージが、1920年代のアメリカ人には既に確立していたということをうかがわせるものであり、一方で、この時期排日移民法が成立した頃だということもあわせ考えると、なかなかに興味深いところである。
(2012.6.28)
『山下清の放浪地図 昭和の日本をぶらりぶらり』（平凡社）
こういうのもあまり「読書」とは言わないのであろうが。「太陽の地図帳」シリーズの１冊。清の作品が多数収録されており、また、放浪のルートが地図で示されている。作品に驚嘆。気ままな行動ぶりが痛快。いやあ、すごいよ、これ。
(2012.5.22)
秋山岳志『機関車トーマスと英国鉄道遺産』（集英社新書）
５月１１日に読了。面白かった。関連していろいろ書きたいことが出てきてしまったので、別稿を立てる予定。
(2012.5.15)
遅ればせながら、別稿が完成。
(2012.8.26)
太田啓之『いま、知らないと絶対損する 年金50問50答』（文春新書）
５月２日に読了。書き始めたら長くなってしまったので別稿とした。
(2012.5.10)
ポール・ド・クライフ著 秋元寿恵夫訳『微生物の狩人（上）』（岩波文庫）
昨日読了。職場の近くの本屋で、先日、なぜか岩波文庫の自然科学書を５冊も衝動買いしてしまったのだが、そのうちの１冊である。微生物を追い求めた人々の英雄伝であり、科学史の読み物として大変に面白い。自らつくった顕微鏡で世界史上初めて微生物を観察したレーウェンフックや、微生物が湧いて出てくるという「自然発生説」を否定するために実験を重ねたスパランツァーニのことは初めて知った。彼らの雄々しくも牧歌的な物語に比べると、病原菌を追い求めるパストゥールやコッホになると、読んでいるこちらがゾワゾワしてくる感じ。だって、いわば素手で、炭疽菌や結核菌を扱ったり、狂犬病の犬から唾液をとったりするのだから…。
訳文がやけに古くさいなあと思ったら、原著 Paul Henry de Kruif Microbe Hunters は1926年の出版で、訳者の最初の訳出は戦中の1942年。1980年に岩波文庫に入った際に改訳したそうだが、そういうことなら仕方ない。「古くさい」のではなく「古雅」と言うべきであろう。
(2012.4.25)
土屋賢二『教授の異常な弁解』（文春文庫）
昨日読了。初期の作品を読んだときほどの笑撃はないが、文庫で新しいのが出ているとついつい買ってしまう土屋センセイのエッセイ集。この「芸風」にも飽きたかなあと思いつつ電車の中でダラダラと読んでいたら、「不満だったのか満足だったのか」のところで、あまりのくだらなさに不意打ちされて笑いが止まらなくなってしまった。ああ、くだらん。
(2012.4.18)
石橋知也『最新 生命保険の基本と仕組みがよ～く分かる本 [第２版]』（秀和システム）
こういう実用書が「読書」の範疇に入るのかよく分からないが、先日帰りの電車で一気に読了。
最近家計防衛に燃えて、自動車保険料の大幅減を実現したところであり、次は生命保険の見直しと意気込んでいるのである。ただ、自動車保険での考えどころが車両保険と運転者限定をどうするかの２点にほぼ絞られるところ、生命保険は何から考えたらいいのかさっぱり分からない。その生命保険についてのイロハのイをこの本は教えてくれる。知っている人には当たり前のことなのだろうが、私には頭の整理にとても役に立った。この本で基本を固めたことで、インターネット上の情報などもすごく理解しやすくなった。
このところの勉強で、職場に来る大手生保のオバさんやおネエちゃんがロクな商品を勧めていないということが急速に分かってしまった。私の現在入っている商品も然り。ええ、断固見直します。
(2012.4.18)
久米邦武 編著 水澤周 訳注 米欧亜回覧の会 企画
『現代語訳 特命全権大使 米欧回覧実記 普及版 第２巻 イギリス編』
（慶応義塾大学出版会）
４月に入って読了。アメリカに続く２巻目はイギリスである。やはり面白い。100年以上前の紀行だが、読んでいると、イギリスやロンドンの景色というのは実は今と大きく変わってないのではないか、という気がした。個人的には、一行がレディングを訪れていることに、ちょっとうれしくなってしまった。ビスケット工場を見学しているのだが、レディングの博物館に往時のビスケット工場の資料があったのを思い出した。
(2012.4.7)
藤岡換太郎『山はどうしてできるのか』（講談社ブルーバックス）
３月に読了。表題どおり「山はどうしてできるのか」を統一的に説明しようという本である。
私は、プレートテクトニクスは知っていたけれど、プルームテクトニクスというのは知らなかった。
ヒマラヤの成因は知っていたし、インド亜大陸がユーラシア大陸を押しているのと同様、伊豆半島が本州を押しているのも知っていたが、丹沢山地がヒマラヤと同様の成因でできたものとは知らなかった。
日本は、本当に地球科学の観点からみて活動的な、あぶなっかしいところにあるのだなとつくづく思う。
ともかく大変勉強になる、賢くなる本である。
それにしても地球科学の進歩というのはたかだか数十年のことなのだということが改めてよく分かる。
ウェーゲナーは生前にはとうとう理解されなかったようだが、言ってみれば、今の地球科学は彼のアイデアの理論付けをしているようにも見える。
著者も書くように、「ウェーゲナー万歳」である。『大陸と海洋の起源』を読んでみたくなった。
ただ、せっかく沢山挿入されている図の説明がいささか不親切（例えば、p.37の図に出てくる「リソスフェア」と「アセノスフェア」の説明がp.101まで出てこないとか）。
さらにp.193で、東北新幹線に乗ると「高崎を過ぎたあたりから火山が次々とほとんど等間隔で出現してくる」とあるのは、「宇都宮」の間違いであろう。これは誰にも分かるので、かえって実害はないとも言えるが、こんなのは、仮に著者が間違っていたとしても、編集側で気づいてほしい。
おまけの話だが、「第○章」ではなくて、「○合目」になっているのがちょっと面白い。
(2012.4.7)
大学のゼミの先生からのいただきもの
２月に読んだもの。非売品なので、名前は伏すが、備忘として記す。
憲法学者である先生の国際的な活動についてまとめられたもの。
先生のフランスでの人脈の広さはもちろんだが、ドイツにもご縁が深いことは初めて知った。
世間での一般的な理解（？）とは異なり、学者の知的活動というのは、実にダイナミックなものだと感ずる。
それにしても、先生の語学力がうらやましい…。
(2012.4.7)
河島基弘『神聖なる海獣―なぜ鯨が西洋で特別扱いされるのか』（ナカニシヤ出版）
13年前の留学中に知り合った著者ご本人からいただいたもの。ありがとうございます。
２月初旬に読了。日本人にはどうにも理解できない西欧人（特にアングロサクソン）の鯨への奇矯な思い入れぶりを鋭く分析したもの。
英国エセックス大学に提出した博士論文がもとになっているので、カッチリとした論理構造で、捕鯨推進派、反対派双方の多数の著作・論文に触れられている。
また、記者出身らしく、両派関係者への直接のインタビューも行われている。
捕鯨問題を考える上での必読書と思う。
どの章も面白いが、第５章でジャーナリズムの限界について触れているところには、著者自身の記者時代の経験が投影されているように思った。
また、個人的には、まえがきで紹介されているエピソードがどうにも笑えてしまった（と言っては大変失礼であるが）。
著者曰く「全然売れない」とのことだが、もっとセンセーショナルなタイトルを付けたダイジェスト版の新書にしたら、結構読まれるのではないかと思うのだけど、どうなのだろう。
(2012.4.7)
カフカ 池内紀 訳『カフカ短篇集』（岩波文庫）
下記の『官僚制批判の論理と心理』の中でカフカに触れられていたので、興味を持って読んだもの。
『変身』は気持ち悪いとの評判なので、短篇集を読んでみた。
訳者も言うように、内田百閒の小説のような幻想的な味わいがある。
官僚制と文学というのは、確かに面白いテーマかも。そういえば内田百閒もこの方面と縁が深い。「百閒と官僚主義」というタイトルで小論が書けそうである。
(2012.4.7)
野口雅弘『官僚制批判の論理と心理』（中公新書）
１月頃読んだもの。著者の専門である政治思想史の観点から官僚制批判について読み解いている。 「あとがき」の冒頭が著者の問題意識をよく表しているので、長くなるが引用する。
傾斜のきつい川原を、目をつぶって歩いていると、自分はまっすぐ進んでいるつもりでも、じょじょに右側にずれていってしまうということがある。今日、官僚制について議論すると、どうしても官僚制「批判」や「反」官僚になってしまうのは、これに似ている。なんとかまっすぐ歩くためには、少なくとも川原の傾斜に足をとられないためには、この傾きを計算に入れて進まなければならない。本書で試みようとしたのは、いわばこうした「傾き」の計測である。
官僚制批判と表裏一体である「ブレない」強い政治家への期待というのが、現下の状況においては、（人々が政策的には必ずしも求めているわけではない）新自由主義と親和的であるという指摘（p.116のあたり）は、説得的である。
政治思想史に詳しくない私にとっては、易しくはない本であったが、いかにも軽薄な新書が多い中で、こういう重たい本があっても良いのではないか。ただ、例えば、マックス・ウェーバーの「鉄の檻」という言葉がさんざん使われた後、ようやく第Ⅳ章で「鉄の檻」について議論が出てくるというようなところは、新書としてはやはり工夫の余地があったのではなかろうか。
あとがきには、自分は行政学の専門家ではないのでといった謙遜の弁もあるが、お決まりの官僚制批判を繰り返すしか能がない凡百の行政学者の著作より、現代の行政を考える上でずっと価値ある本である。（全ての行政学者がダメと言っているわけではない。為念。）
(2012.4.7)
カズオ・イシグロ 入江真佐子 訳
『わたしたちが孤児だったころ』（ハヤカワepi文庫）
Kazuo Ishiguro When We Were Orphans
たぶん年をまたいで読んだもの。
カズオ・イシグロはこれが２冊目。
最初に読んだ『日の名残り』は圧倒的な面白さだったが、これも最後まで読者の気をそらさず、本格的な小説を読んだという満足感を味わうことができる。
でも、むしろ幻想的なところを狙っているということなのかもしれないが、いささかストーリーに現実感がないような気がしてしまう。
なぜ、主人公は、自分の両親がずっととらわれの身でいて、なおかつ生きていると思っていられるのか、どうしても腑に落ちないのである。
(2012.4.7)
久米邦武 編著 水澤周 訳注 米欧亜回覧の会 企画
『現代語訳 特命全権大使 米欧回覧実記 普及版 第１巻 アメリカ編』
（慶応義塾大学出版会）
以前から『米欧回覧実記』はずっと読みたい本であった。
しかし、岩波文庫でその流麗な漢文調の文章を見るたびに、これは到底読み通せまいとあきらめていたのである。
それが、何年前か現代語訳が出たのを知り、喜び勇んで池袋の某書店へ。
早速、若い男の書店員をつかまえて、尋ねてみると、「ありますよ。でも、高いです。」。
分売なしで全５冊25,000円。はあ、本当に高い。結局買わずじまい。
ところが、その後「普及版」が出ていたとは。一気に全５巻＋索引を購入。
昨年中にとりあえず第１巻アメリカ編を読了。
圧倒的な物質文明に対峙しながらも、卑屈になったり、逆に尊大になったりすることなく、冷静な観察に徹し、なおかつ、旅そのものを楽しむ余裕すら感じさせる。
こういう知性を生み出すことができた江戸末期から明治初めという時代はどういうものだったのだろう。
(2012.4.7)